後ずさりした私の肩に手。シエスだった。にっこりした顔がなんだか、その、怖い。



「カオル様、ここは私が片付けておきますので、どうぞお先に」

「大丈夫、ですか?かなり揉めて…!?」



 横を皿が飛んでいった。そして壁にあたり、割れる。さっきから破壊音がして体をすくめてしまう。

 それもそうだ。

 フェルゼンは剣を抜いているし、一方の残念イケメンもまた拳を構えている。フェルゼンは不機嫌、男は笑み。


 シエスにすすめられ、部屋を出る。その間にも派手な破壊音がしている。シエスがなんとかするといっていたが、本手に大丈夫なのだろうか…。


 ―――と。
 静かになった。


 笑顔で出てきたシエスが「もう大丈夫ですよ」と去っていく。部屋を覗くと、だいの大人の男が床に座っていた。一瞬、見てはいけないものを見た気がした。



「………イーサン」

「………よし、直してくる」

「しっかり直せ」



 あ、という顔が私に向けられてフェルゼンがばつの悪そうな顔をした。
 一方の残念イケメンは立ち上がると、そそくさと出ていった。いや、あの、そこ窓なんだけど…。

 フェルゼンもまた立ち上がり、溜め息。室内は酷い有り様だ。テーブルにあったものは溢れたり、割れたり落ちたりしている。この惨状と、笑顔のシエスと二人の男を見ると、シエスに怒られたんだなと思った。
 


「スフォルに入る前、国境で兵士が泣き付いてきたのを覚えているか?」

「えっと、脳筋っていいかけた?」

「ああ。トロスウェル卿と呼ばれていた」



 嫌な予感がした。
 嫌な予感、というまでもないだろうが、こうくるともうわかる。



「今のがそうだ。イーサン・トロスウェル。魔術師のくせに魔物を素手で殴る馬鹿。カシェルの同僚だから腕は確かなのだが…」