さよならを告げるまで




 この世界に来てから、どれくらいたっただろう?一年もたっただろうか?


 移動だけで数日、いや、数ヵ月かかるような時代。キリアールでの生活は数ヵ月。まだキリアールでの生活の方が長い。

 私の中でのキリアールは、あまりいい日々とはいえない。だが、と思い出されるのは美桜と翔のこと。

 旅に出てからどうしているのだろう。魔物と戦っているのだろうか?




 空に、影。
 それは大きな翼を持つもの。


 空の青色に、目立つ赤色が通りすぎていく。翼は鳥というよりは蝙蝠のようで、頭や体は蜥蜴などを思わせる。ドラゴン。

 通りすぎた、と思ったが翼ははためき、
方向転換。回るようにしてゆっくり降りてくる。背中には人。



「お、かえりなさい」

「ああ。こんなところで何をしている」



 竜は翼を大きく羽ばたかせると、風が巻き起こる。着地し、長い首が下げ人を下ろす。騎士団の服装に身を包んだフェルゼンだった。
 身なりをきちんとした姿は、凛々しく格好いい。よって何だか挙動不審となってしまう。

 フェルゼンのすぐ近くにいる赤色の竜がこちらを見ている。と、移動してきて鼻先で匂いをかぎ、そしてあちこちすりよせてくる。
 大きな犬か、甘えてくる猫のようなしぐさは甘えと挨拶でもあることを知っているが、未だちょっと驚く。

 竜は大きい。牙もある。すりよせてくるたび、私の体が右へ左へと動く。



「散歩に出てきたの。気分転換というか」

「カシェルがきただろう?どうだった」

「楽しかったですよ。ただまだ上手く使えませんけど」

「気長にやればいい。慌てるな―――アッシュ、それくらいにしてやれ。カオルが酔う」



 アッシュ、という名の赤竜はちぇ、というような顔をして離れる。

 アッシュはフェルゼンの竜で、普段は移動に使っている。スフォルでは珍しくないそうだが、地球人である私は竜なんて縁がない。よってまだ慣れない。あの爛々とした目とか、くわっと口を開けば並ぶ鋭い歯とか。