さよならを告げるまで




 カシェルが戻ると、再び一人で復習する。
 無理は禁物といわれているため、ほどほどにし、今度は書斎にこもる。書斎は立派な図書室のようになっていて、好きに使えばいいと言われていた。

 ずっと読むと目が疲れてくる。背伸びをした。


 魔術師としての力があれば、色々と出来る。例えばこの広い敷地内を綺麗にしたり、とかだ。住まわせて貰っているのだから私にも何か手伝えるなら手伝いたい。


 私の一日は、大体こんな感じだ。

 朝起きて身支度をし、ご飯。そのあとはまた本を読んだり、広い庭を迷子にならない程度に歩く。カシェルがくれば、魔術の勉強と雑談。ウジェニーやニーナとお茶。

 キリアールとは違い、邸の使用人と話すことが増えた。使用人らはみな優しく、気さくに話してくれるから緊張せずに済むようにまでなっている。その筆頭がウジェニーと、この邸の執事をしているシエスである。
 


「おや、散歩ですか」

「はい。その辺ぶらぶらしてきます」

「あまり遠くへは行ってはいけませんよ?」

「ええ」



 入り口で会ったのはびしりと執事らしい服装に身を包んだ年配の紳士。ウジェニーより年上の、優しげなお爺さんといった容貌のシエスに断りをいれる。

 邸の付近は手入れのされた庭が広がる。が、所々広くなっているそこをうろうろするだけでもいい散歩になるだろう。

 歩きやすいブーツに、ズボン。
 動きやすい格好であるが、手が込んだ模様が入る。腰には護身用というナイフが下がる。これはフェルゼンがくれたもので、護身用とはいったが、おまもりに近い。

 プチ男装。……いや、私の顔なら一発で女だとわかるだろう。キリアールではなかった自由さだ。


 私が散歩に出歩く範囲は、邸が見える範囲。さほど離れていない。

 邸に近い手入れされた庭でのんびりすることもある。テーブルと椅子があり、そこで読書したりするのだが、なんだか夢みたいな気分になる。


 フェルゼンは数日前から不在だった。首都の騎士団の一つを背負う団長をしている彼は、こうして数日邸を開けることが度々ある。昔はもっと帰らなかったとシエスがいっていたが、「今はカオル様がいらっしゃりますから、坊っちゃんも帰るのが楽しみなのでしょうね」と微笑んでいた。

 私がいるから、か。様子見のためとか、そういうのだろうけど素直に嬉しくもあった。
 風が気持ちいい。