さよならを告げるまで




「やっぱり?―――ああ、カオル、何ともないかい?使えてる?」

「ええ、大丈夫です」

「それはよかった。焦らずゆっくり使えるようにしようね」



 カシェルは宮廷魔術師、ならばフェルゼンはなにをしているか?

 騎士団というのはいくつかあるそうで、その一つの団長をしているそうだ。で、びしばしやっているとか。

 鬼、魔王、魔人などなど言われているらしいが、今のところ帰ってくるフェルゼンはキリアールにいた時と変わらない。
 


「そういやあの本、読めたかい?くそつまらなかっただろー」

「えっと、その」



 私が力を持っていて、しかも魔術師と名乗れるほどの魔力があることが判明してからというものの、師匠はカシェルがやってくれている。
 この世界の人は大抵、簡単な魔術を扱えるが(使えない人もいる)、魔術師となるにはそれよりも大きな力が必要となるらしい。で、私の場合は後者、魔術師になれるだろうということだった。

 だが、魔術師というのはそれぞれ個人差があるそうで、私は焦らずのんびり色々と教えてもらっている。

 カシェルからは魔術に関する本を借りていたのだが、くそつまらなかった、というわけではなかった。が、「難しかったです」と。
 カシェルは「だよねー。僕それ前半で投げたし」と笑う。



「魔術師だからといって、こうしろああしろっていうのに縛られるわけじゃない。僕は、だけど。僕だって落ちこぼれじみてたし」

「…そうなんですか?」


 気がつけばウジェニーは衣服をきれいにしまってくれていて、ニーナがお茶の用意をしてくれていた。カシェルはその杯を受け取り、口をつける。



「僕の家は軍人とか役人とか輩出してる名家で、ある程度は剣術とかそういうのを求められるわけ。よくある貴族のたしなみってやつさ―――でも、僕は小さい頃からあんまり剣術とか得意じゃなくてね。よくぼこぼこにされてた。同い年くらいの子に。けどね、それをやっつけ返したのがフェルゼンだった。ウジェニーも知ってるよね」

「ええ。玄関前で泥だらけで、青あざ作った坊っちゃん方を見て、騒ぎになったんですからねぇ」

「そうそ。あのときは凄い顔で蹴散らしてさぁ。馬鹿かお前は、って。あれはヒーローじみた登場だったよ」



 フェルゼンとカシェルの出会い。
 どうやらそれまであまり縁がなかったらしい。家も遠いし、身分もどちらかというとカシェルのほうが高い。となると貴族の子供だって近い人と遊ぶことが多いだろう。
 カシェルはうんうん、と頷く。