箱には衣服が入っている。一つ一つチェックし、スカートなんかの丈を合わせる。されるがまま状態である。


 ――――で。
 この国の衣服はまあ、凄い。貴族服、礼服は釦やら刺繍やらがかなり凝っている。

 女性は基本スカートというキリアールとは違い、女性でもズボンは着るし、きりりとしている。格好いいのだ。が、着方に苦戦する。最近はまあまあ着れるようになったものの、手の込んだものは苦戦するままだ。

 鏡を見たとき、私は似合わないと思った。平々凡々の顔だし…とちらりの横を見た。ニーナは抜群だった。美人だった。



「やあ!お久しぶり、ってお取り込み中?」

「カシェルさん」

「あ、洋服かぁ…フェルゼンとやつ、ちゃんとやってるねぇ」

「そうでもありませんよ?私に相談していましたもの」



 キリアールから戻る際に着ていた貴族服ではなく、今は魔術師らしい格好をしたカシェルが箱を見ながら笑う。

 フェルゼンの邸にきて、ゆっくり過ごしたのち、私はカシェルと再会した。といってもカシェルが会いに来たのだが―――そのとき、カシェルにちょっと特殊な儀式(眠ってる力を引き出すものらしい)をしてもらった。

 庭先(といってももう庭というか広場)で、カシェルが何やら模様を描き、その上に私をたたせた。

 そして発動した術は、車酔いのような気分にさせてグロッキーにはなったものの、イメージで簡単な魔術(火を出すとか)を使えるようになったのは、思わず「まじですか」といってしまったほど。

 それにはカシェルが「まじです。大まじ」と胸を張った。



 あの時はグロッキーな気分であったため興奮が半減したが、私にも力があったということは大きい。異世界に来て、力だなんて。まるで本当にファンタジーの世界だ。

 遠いキリアールが思い出されて消えていく。

 私にも力があった。
 私にも―――。

 力があるなら、制御したい。使いこなせるようにならなければならない。

 それからというものの、度々カシェルがフェルゼンの邸にやってきて、魔術について教えにきてくれているのだ。