▼12 散歩からの
「カオル様!カオル様!」
よく通る声は、シャエルサーン家のメイドをしているウジェニーの声である。ややふくよかな体の、私の親くらいの年齢の女性だ。
両手には、リボンがかかった箱が重ねてあり、顔はその箱の横からひょっこり出す。
「服、届きましたよ。丈を合わせましょう」
「あの、服って」
「あらまあ、坊っちゃんから聞いてませんか?困ったものですねぇもう―――坊っちゃんからですよ」
スフォル=レンハーザ竜王国にきて、少し。
遥々キリアールからここに来るまで何日もかかってやってきた国は、今のところ実に平和なものである。
前から言われていた通り、フェルゼンの邸の一室を借りて生活している。ニーナはここにきてもなお私の侍女をしつつ、シャエルサーン家のメイドもしていた。
洋服なんかは最低限キリアールから持ってきたので、という私とニーナをよそにフェルゼンが「必要だろう」といってスフォルの洋服を買ってくれたのはつい最近の話だ。
お店にはすでに連絡が入っていて、私とニーナが行くとあれやこれや計られ、後に洋服が届けられたのである。
値段は、と戦々恐々としたのは記憶に新しい。
フェルゼンは宣言した通り、私とニーナを邸に住まわせたのち、自由にさせている。
スフォルへやってきて数日は、疲れた体をゆっくり休めた。それから少しずつ、ここでのことを教えて貰っていた。
フェルゼンの邸は広い。
話に聞くと本邸は別にあり、この邸はもともと別邸だったらしい。が、フェルゼンが首都の騎士団所属となった際、フェルゼンの家としたそうだ。本邸のシャエルサーン家はもともとバイロイトという地域の領主だという。
現在はお兄さんが領主だという話を聞いて、思わず「実は凄い人なの?」と聞いてしまったのは仕方ないではないか。目を丸くしたフェルゼンは「まあな」という。
フェルゼンの邸は、少人数である。使用人が数名に、執事。
この広い土地をどう維持しているのか謎だが、とにかく広い。散歩だからといって無駄に歩き回れば迷子になるであろうほど。
今は私に当てられた部屋にいて、ウジェニーが「んま、坊っちゃんったら古風な」などと文句(?)をいっているのを見守る。