さよならを告げるまで





 例外がなんなのか知らないが、フェルゼンはああと理解し「肉体派魔術師がいないわけではないな…」も何故か遠い目をした。カシェルもまた苦笑し「あれこそ脳みそ筋肉じゃないかな」と。
 誰かのことをいっているのだろう。
 


「魔物がいるだろう?あれを魔術で倒すのが魔術師だけど、彼の場合…その」

「素手で殴るのだ」



 目が点になる。あの魔物を?
 私は美桜らに比べてあまり見ていないが、大きさだってあるし、動きは早かったりするし、と思い出された。あれを素手って。

 近いうち会えるさ、とカシェルが笑い「喧しくてかなわん」とフェルゼン。その二人の顔には笑顔。

 やはり母国に帰るというのは楽しみであり、ほっとすることなのだ。



 馬車は問題なく走り続けた。

 途中私はうとうととし、頭をぶつけるというアクシデントもあった(フェルゼンは笑いを堪えていた)し、キリアールの要所では何度か止められることもあったが、問題はなかった。

 国境を越えてからも度々止められるということは変わらず、変わったのはキリアールではないという街並み。国が変わると服装や雰囲気も変わってくる。が、ここは通り道であるため、あと少しでスフォルとなると、なんだか妙にドキドキしてくる。修学旅行と訳が違うというのに。

 久しぶりの感覚だった。それはニーナも同じらしく、宿で「何だか緊張してしまいますね」ともらしていた。




 キリアール王国を抜け、しばらく。他国を経由し、馬車はいよいよスフォル=レンハーザ竜王国へと入る。国境はさすがの警備だ、というまえに。
 ―――空に、影。



「どうした」
「い、今の!」


 窓に張り付きながら、空を見た。フェルゼンもつられるようにして窓を見ると「警邏隊だな」と。私が何故驚いているのか理解したらしいフェルゼンが「あれが竜だ」という。

 そう。
 空に大きな影があった。

 鳥というより、コウモリのような翼の生き物は、三体いて、大空を飛行していたのである。ニーナもまた窓から見ていた。その顔には驚きと恐怖。ニーナはキリアール出身であるから、竜はやはり恐ろしいのだろう。私だってそうだ。


 しかし、竜か。
 本当にファンタジーな世界だ。魔物がいて、魔術があって、竜がいる。下手したら魔王とかも出てくるんじゃないかとよぎって苦笑する。