さよならを告げるまで






「戻ったら、乗せてやる」

「本当?」

「嘘ついてどうする」

「乗ったことないなら、うん。驚くだろうね。落っことされないようにしないと」

「………落とさないでください」



 聞いていたカシェルが笑うそれは、冗談とわかっているが想像したしまう。
 「落とすのはお前だけで十分だ」とフェルゼン。落とすって穏やかじゃない。なんとも言えない空気に、「お茶にしましょう」とニーナ。いい香りに負けた。


 国の貴族が移動しているため、護衛もまた存在している。カシェルの私兵はニーナにちょっかいをかけ、軽くあしらわれている。
 カシェルがカップを持ったまま、こちらに近づく。



「カオル、この地名読める?」

「えっと、ドルトラ?」

「そ。ドルトラ。こっちは」

「ナリエ?」

「この地図、スフォルで作られた地図だからね、表記は基本スフォルの言葉で書かれている。読むのと話すのは問題ないから、あとは書くだけか」



 うーん、とカシェルが首を傾げて、やがて「トゥルガイ、書くものちょうだい」と声をあげる。控えていたトゥルガイがノートらしきものと、書くものを持ってくる。
 受けとると「これはカオルに出来るかわからないけど」という。

 ペンは滑らかに走る。私は読めるため、「ここに、キリアールでの言葉で書いてある」の通り、お天気はどうですか、と書いてある。
 が、「見てて」とカシェルはいうと、指先で文字の上をたどっていく。するとどうだろう。先ほどと形が違っていた。どういうことだ。
 


「反則技。翻訳術ともいうけど、出来るのにはまず話せてその国の言葉を理解しているとか、色々と条件があるんだよね。だから使えない人もいる。フェルゼンは最低限の魔術は使えるけど、翻訳術は使えない。まあ、日常生活に支障がないくらい使えるから彼の場合問題ないけど、カオルの場合は使えるか僕にもわからない。読めるし話せるというのは、理解に入るのかとかね。だってほら、どんな言語も変換されてしまうだろうし。もし駄目でも、勉強すればいい話だ」

「…魔術師自体がほぼ反則だと思うが」

「僕らはそれが仕事みたいなものだしねぇ。使えないとただの優男になっちゃうし、接近戦は苦手なのが魔術師なんだから…まあ、例外がいるけど」