▼11 竜の国
―――この国で、私は何をしてたんだろう。
窓から見える景色を眺めながら、ふと思った。
私が今乗っているのは馬車だ。とはいえ地球、日本にいたころテレビで見たような馬車とは少し違って広い。ゆったりとした席には現在ニーナと、フェルゼンがいる。
前にも馬車が走っているのだが、そちらにはフェルゼンの友人であるカシェル・ルドゥ・アウルダートという男と、その側近が乗っている。
何故こんなことに。
フェルゼンが私に、国を出ないかと誘ってきたのが始まりだった。窮屈なここから出ないかと。
それはただの誘いではなく、理由もある。
キリアール王国で行う儀式では、召喚された異世界人には力があるとされる。今まで姿を見せた異世界人はみな力があったため、私が力がないというそれは、力があるという事実を変えてしまうことになる。
公にしなかったのは、どうするか考えていたからだろう。
そして、邪魔と思われたら消されるかもという話にはぎょっとした。私も多少なりとも考えていたからだ。
フェルゼンは、スフォル=レンハーザ竜王国へと私をつれていけるといった。ニーナも望むならと。
私は迷った。
だって喚ばれて今に至るまでここで生活していたのだ。また新しい国に、だなんてと。
不安だった。怖かった。足元は不安定だった。
いつこの生活が崩れてしまうかと怯えた。
フェルゼンはそれを理解した上で、誓ったのだ。自由に生きていけるようにすると。お前を不幸にはさせないと。死なせないと。まるで告白だった。今まで生きてきたなかで、あんなに真剣に言われたことはなかったと思う。
戸惑う私は、それでも手を取った。
ここではないどこかへ、と思ったのだ。ここにても、何もない。だったら、と。