そして、今しゃべっている翔も、美桜はあまり好きではない。だからといって、もう日本に戻れないなら、同じ日本人として彼との付き合いを完全には絶つことは出来ないと思った。
「黙っていても、人が寄ってくるなんてな。チートとハーレムかよって。美桜の場合はあれだ、逆ハーだっけ。俺らにはそういうのあっけど、あの人は悲惨だよな」
「ねぇ、どうしてあの人は力がなかったのかな」
自分達は、すんなり力を得た。だか薫は違う。戸惑い、不安で、それでいて必死だった。それを見ると優越感にひたれた。
味方のふりをして薫に会いにいっていたとき、薫は暗かった。美桜は思ってもいないことをいいながら、嘲っていた。ああ、貴方のようではなくてよかったと。
薫は普通の、どこにでもいるような冴えない大人だった。詳しく聞いたことがないが、見た感じでわかる。髪の毛の手入れも甘いし、化粧なんて適当であるし、お洒落でもない。どうせ田舎で暮らしている女だとわかる。
だがそれくらいで、もっと聞き出せばよかったと後悔した。
力がないのは、普通だからか?だが、と美桜は自分や翔のことを考える。不細工ではないだろうが、それが力の有無を決めるものなのだろうか?過去の召喚された人はどうだったのか。
「一人だけ年上だよなー。二十歳過ぎてるんだっけ」
年、か。そんなことで?
「けど、あいつ邪魔にならねぇのかね」
「どういうことよ」
「異世界人ってのは、必ず力を持ってるんだろ?だけど、薫にはない。異例ってことになるから、儀式をやった連中は成功はしたけど、失敗したともいえねーか?」
「……確かに、そうだね。あ、だから離宮に?」
「閉じ込めて、どーするか考えてるんじゃね?まあ、どうでもいいけど。力がねぇならなんにも出来ねぇだろ」
けらけらと笑う翔だが、美桜は何だか不安を覚えた。
翔のいうとおり、薫には力がない。味方もない。美桜や翔に立ち向かうことができないはず―――。
そういい聞かせて、美桜はお菓子に手を伸ばした。

