何度も泣いたって変わらない。部屋はそこにあり、私はここにいる。武器は扱えない。体力はたいしてない。美人でもない。 可愛らしい美桜とは全然。愛想がない。そんなの、冷たくしてくる相手にどうしろと。私からすれば儀式をやった連中は拉致した本人らだ。けれど、私にはここしかない。放りだされたらどうしよう。そんな不安があった。


 私にあるものは?


 話す言葉が通じること。文字は異国のものだが読めること。が、書けることはないのでそこは問題があった。まあ、誰かに書くことは今のところないのだが、学ぶ必要がありそうである。読めて話せる。それくらいだった。それで何が出来る。

 今日も図書室に私はこもっていた。図書室はかなり広いが、人の姿はまばらだった。

 とにかく、情報だ。
 読めるなら、読書が出来る。


 国のこと。世界のこと。異世界からの召喚と人について。街のこと。宗教は。とにかく、読んだ。読むしかなかった。八つ当たりのように。読んでいればそれに集中できる。不安も恐怖も抑え込むように。お願いして白紙の本とペンを貰い、メモする。役立つかどうかなんてわからない。だがやらないよりはいい。


 ここがキリアール王国とかいうことや、覚える必要がありそうなものを書いていく。書いているとき、泣きたくなったこともあるし、実際ぼたぼたと涙が落ちたこともあった。どうしたらいいのかなんてわからない。



「まだ読むのか」



 背後から声がした。
 振り返ると、この国の人というにはいささか肌の色が濃い男が立つ。濃いといっても、健康的に日焼けしたような色だ。そして銀色の髪の毛がまとめられている。私の唯一の護衛をしている人物だった。

 無口で見た目もちょっと怖いこの男は、フェルゼンという。律儀に私が図書室にこもっているときも、朝も大体姿を見せる。

 彼が私の護衛に何故なったのか知らないが、彼に対する回りの態度でなんとなくわかる。彼もまた、何かあるのだ。避けられたり、冷たい目を向けられる理由が。けれど、彼の何が問題なのかわからない。