「夢みたいだよな、本当。ラノベとかアニメの主人公になった気分だ」

「……これ、何かの話?」



 美桜が知るものには覚えがない。年にいくつもアニメやライトノベルは出されるのだ。全て知っているわけがない。翔は「さあな」と。
 自分だけが知らないというわけではないらしい。だから、この世界がアニメやライトノベルの話の世界かどうかはわからない。

 まあ、物語の中の世界だとして、やることはたいして変わらない。それに知っていても、覚えていることなどたかが知れている。

 こんな世界でなければ、間違いなく翔のような男は後免だった。向こうも向こうで美桜は後免だろう。



 だがここではどうか。誰もが美桜や翔に微笑む。好きだという。側に置いてくれという。

 複数からのアプローチというのはやはり憧れるが、日本にいるときはやはり憧れでしかなく、現実は冴えないばかりだった。翔も美桜もこことは違い、ごく普通の高校生でしかなかった。
 ライトノベルや恋愛ゲームをやりながら、私もこんなふうにと妄想して、あるはずがないという気持ちも抱えた。力があったら、特別だったらと思った。



 今、翔も美桜も特別である。
 それは実に甘く、心地よい。



 だからこそ旅をするだなんてと溜め息。



 はじめて魔物を見たときなんて無理だと思ったのだが、倒せた。
 薫は怯えていた。薫には何もない。その姿を見て、美桜は安心した。私は特別。あの人とは違うと。

 しかし自分が薫のような立場だったらと思うと、たまにいてもたってもいられなくなる。かわいそうにと思うことだってある。だが、それでいい。

 だって、いらないもの。