無いとされた力が実は、ということがあったら、せっかく築いてきたものが薫に取られてしまうのではないか。
翔はまだ男だからいい。けれど薫は女だ。美桜は声をかけるようにして様子を伺った。薫は何を考えているのかわからない。当たり障りのないことはいうが、それだけ。
自分より年上の大人のことなんてさっぱりだが、まじまじと観察する。顔、体。どちらも時分のほうが優っている。やはり、自分は特別なのだ。不安は杞憂だと結論付けた。
舞踏会では様々な人と会った名残がまだあるのに「もう旅に出るんだもん」と唇を尖らせる。
そう。
美桜と翔には、国の各地へ旅をする予定があった。「勇者気分だな」と翔はいうが、美桜は憂鬱である。わざわざあちこち行ってなんになるのかと。あの気持ち悪い魔物を倒すのも憂鬱だというのに。
だから、同行者を決める際に美桜はフェルゼンの名前をあげた。驚いたのはルドルフやザウツらである。
美桜は女だから女の同行者もいるが、あんな異教徒はと却下されてしまった。
美桜にしてみれば、異教徒というのはあまりピンとこない。日本では仏教やキリスト教なんかがあるが、日本人はあまり宗教に関しては鈍い。美桜もまたどういうことか問うと、長々と平和を乱した邪竜の話などをされてしまい、口を閉ざすしかなかった。
「戦争に行くわけじゃねーからいいだろ。そんなにあの男と離れたくねぇのかよ」
「……」
「だったらヤってくれば?」
「馬鹿言わないでよ」
「俺はヤりたい放題だけどなー」
嫌悪感を出した美桜を気にすることもなく、翔は笑う。ついこの前まで童貞だったくせにと内心毒づく。
この異世界トリップをしてからというものの、異性か寄ってくるのは美桜だけじゃない。この翔にもだ。その遊び具合が大丈夫なのといいたくなるくらい。

