▼10 二人の異世界人




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 竜、か。
 そう呟いたのは翔だった。豪華な室内には美桜が菓子に手を伸ばして「ここでは見ないよね」という。

 見たことがあるのは、地球で見たことがある動物や虫なんかを混ぜたようなものばかりだ。そのなかに竜はいない。いるらしいことは聞いたが今のところ見たことがなかった。
 


「見ないわけじゃねーみたいだぜ?魔物としてるみたいだし」

「そうなの?」

「お前さ、ちゃんと聞いてたのかよ。スフォルのこと」

「聞いてたけど、遠いところの話でしょ。それに竜とかいえば、ルドルフらがいい顔しないし」

「竜を邪悪な、とかいってるもんなー。宗教なんて全然な俺らからすればよくわかんねぇ話だし」

「一緒にしないでよ」



 不愉快そうに言い返す美桜はだが、と思う。「カシェルって人、フェルゼンと同じ国なんだよねぇ」といったため、翔がにやりと笑った。



「タラシ込むつもりだろ?」

「別にそんなんじゃ」

「いいんじゃねーの。人数いて困ることねぇだろうし」



 異世界人としてやってきたこの国は、キリアール王国という。

 かつて異世界からやってきた人間がこの国を救ったという話があるここでは、儀式によって異世界人を召喚する。その儀式でやってきたのが美桜と翔だった。もう一人のことはオマケなのかなんなのか今のところわからないまま。


 この国にやってきてから美桜と翔は恵まれていた。二人でこれが異世界人の補正かとか、あるいは特典かと話したほどである。よくあるライトノベルなどの話だ。

 翔と美桜はそれらかと心が踊っていた。実際、トントン拍子に物事が進んでいった。力はある。それに見渡せば美男美女ばかり。まさに時代がきたという状態だった。
 

 しかし、不安もあった。
 同じくきた異世界人。薫の存在は、よくある異世界ものでの逆転が待っているのではと。