部屋に控えていたトゥルガイが一息つき「よくまあ」と疲れた顔をする。
力のない異世界人の扱えないに困っている今、彼女をどうにかするチャンスだ。儀式をして喚ばれた異世界人を殺すことにもまだ抵抗がある今、あっさり手放す率は
高い。それにカシェルには彼女のことを知っているという強みがあるし、大国の貴族の言葉には影響力がある。
異世界人が実は三人だなんていう話が出たら大変であるから、今ごろ話し込んでいるだろう。
会場に戻りながら、「あれは確かに脅しに入ってますよね」とトゥルガイがいう。勿論そうだ。
「ですが、何故そんなに引き受けたがるかと思われませんか?スフォルがそうなら、と強くは」
「出ないと思うよ。彼個人はこれで僕と秘密の共有でもするような気分だろうからね」
「どういう…?」
「僕が聞いたという話に興味津々。誰からとなると、フェルゼンの線も出るだろう。僕がカオルを欲しがったら―――よこしまなことを想像するだろ。あの手はさ。大国のボンボンが面白いことを聞いて、欲しくなっちゃったみたいな」
この国にも歪んだ欲望の貴族がいる。その弱味を実はカシェルは握っていて、それを手に解放をと思っていたのだ。上手くいけば何処にでもいる悪人であるため、ばらされたら破滅。つき出せば感謝、である。
が、あの男はカシェルがそんな悪人貴族だと思っているだろう。
それに、とカシェルは続けた。
「あとまだ協力者がいる。カオルには唯一侍女が一人ついているんだけど、その子にもし僕やフェルゼンのことを聞かれたときの対処法も伝授してあるし―――」
「そんなうまくいきますか?」
「いかなかったら、別の手も打ってるから大丈夫」
「え、いつのまに」
「僕を誰だと思ってるんだい?」
知らないという顔のトゥルガイとともに会場に戻る。そ知らぬ顔のままカシェルはご婦人がたに笑みを返す。
スフォルの貴族だとわかると、僅かに怯えも含むものの興味もあるらしい表情が並んだ。

