異世界人に、力の有無はそれぞれであることをカシェルは知っている。母国にも異世界から突然やってきた者はいるからだ。
 しかし、そうか。
 内心でカシェルはほくそ笑む。



「では―――彼女の存在が知られるとまずい?」

「ええ、ですから」

「そう……ああ、なら。我が国につれていきましょうか」



 驚いた男は、何を考えているのかと考えあぐねているようだった。それもそうだろう。どういうつもりでいっているのかと思っているはずだ。

 財産として力のある異世界人は手放さない。ミオもショウも。だが公には出来ない、儀式によって喚ばれた異世界人の扱いは困っているのだ。

 離宮で生活させているとはいえ、いつ知られるかわからない。知られたら知られたで、力がなかったと、二人に捲き込まれた等といえばいいのではないかとも思うが、そうもいかないらしい。



「彼女のことを知るのは一部。離宮にいるのなら、何かで知られる可能性はないとも言えない。ならいっそのこと他国の人間にしたほうがいいかも知れませんよ。実は他国の、などといいわけもつくでしょう」

「他国の…?だが都合がよすぎませんか。離宮にずっといたのですよ」

「病がとか適当に理由などつければいい。他国の者だから無下にも扱えなかったといえばたいした問題にはならない。キリアール王国はわが国とは宗教の違いもありますからね」



 男は変わらず迷っていた。カシェルが何故そんな提案をするなか、裏を探るような顔である。
 勿論裏があるよ、でもわかるかな。
 カシェルは「見返りは」と吐き出した男にそっと告げる。



「特には。彼女を死なせることはありません。言葉は違いますが、その辺も安心下さい」

「貴殿の興味ですか」

「まあ、そんな感じです」



 カシェルは「どうです」と提案し、男は考えさせてくれといって立ち上がる。それにならってカシェルも立ち上がり、見送りながら別れた。