遮ったのはこの国の人物だった。「竜王国から遠いところを」などと挨拶をしてくるそれに、カシェルは愛想よく返した。名前を聞けば、まあまあな地位。ならこいつでもと「もう一人異世界人がいると聞きましたが」と切り出してみる。一度はとぼけた。とぼけ具合が甘い。焦っている。
 だが儀式をした時の一人なのだと自慢していたのを聞き逃してはいない。


 儀式に関わっているなら、尚更いい。

 知っている貴族に声をかけようかとも思ったが、これはすんなりいくかもしれない。


 男はカシェルの言葉が危険を孕んでいることに気づき、さすがに不味いと思ったらしく、こちらへと別室へ案内された。会場を離れて個人で話すのは珍しいことではない。人が集まれば時には人に聞かれたくない話も飛び交う。

 賑やかな会話が繰り広げられた会場から一変。室内では「どこでそれを知ったのです」と聞かれた。
 


「…私の間違いでなければ、三人いると聞きました。異世界人は三人ではありませんでしたか?ミオとショウの他に、もう一人」



 名前は知っていた。だがあえて言わない。

 さらに追い詰められた男は、溜め息。誤魔化せないと悟ったそれには諦めと、厳粛な国の役人としての顔があった。だがわずかに別の色も見えたのを見逃さない。
 カシェルは表の顔のまま言葉を待つ。



「それは―――誰から聞いたか知りませんが他言無用でお願いします」

「勿論。口に出してもいいことはないでしょう」

「…確かに異世界人はもう一人。貴殿の国からきているフェルゼン殿が護衛を引き受けた人物がいますが、彼女は力がなかったのです」

「成る程。確か、召喚された異世界人には力があるのでしたね」

「ええ…」



 儀式で姿を見せたのは三人。ここ暫く異世界人が姿を見せることはなかったため、三人現れたことに儀式をやった連中の興奮は大きなものだった。が、三人のうち一人が力を持っていなかった―――それは儀式で姿を見せた異世界人には力があるという常識が変わってしまうことになる。

 記録ではそういう文は残っていないため、焦るだろう。


 喚んだ側はこちらであるため、生活や身の安全はちゃんとしながら仕方なく離宮にいるのだという。

 苦々しい顔の男を見ながら、カシェルは仕方なくねと内心呟く。

 異世界人がこちら側にどういうわけかやってくることはある。喚ばれるとかそういうのもは関係なく、だ。もちろん世界は広く、異世界人を欲しがる存在もある。喚ぼうとするのも、だ。