▼9 友人暗躍
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「異世界人なんてそんなありがたーいものかね」
一人そうもらすのは、カシェル・ルドゥ・アウルダートである。
スフォル=レンハーザ竜王国の貴族の格好に、装飾品のひとつである耳飾りが揺れる。スフォルでは男も着飾ることにとくに問題はないが、ここでは些か目立つ。
スフォルの貴族ですけどなにか、と人を怯ませる効果もあるのだ。
「スフォルではさ、まあ数は少ないし珍しいけど、そのくらいだ」
「ここでは儀式とやらで喚ぶと聞きましたが」
「そうそう。昔の英雄の死から生まれたっていうやつ。儀式では毎回異世界人が姿を見せる訳ではないみたいだけど―――出てきた異世界人がみんな力を持っていた、っていうの。どう思う」
室内にはカシェルの他にも人の姿がある。くすんだ金髪に、日頃の鍛練の証の肉体と日焼けした肌の青年は「私に聞くのですか」と困った顔をした。
彼は母国からつれてきたカシェルの護衛である。護衛と側近を兼ねた彼は言葉を出す。
「そういう話なのでしょう」
「けどさ、歴史なんて参考になるくらいで、実は本当かどうかなんて怪しかったりするものだよ―――何回も儀式をしてるなら、力がない異世界人がいてもおかしくないと思うんだよね。だってほら、スフォルにいる異世界人のことを考えるとさ」
「……まあ、そうですね。魔術を使えたり、身体能力が高いなどはありますが、ごく普通のというのもいますね」
「だろ?異世界人だって普通の人間。だからフェルゼンのいうとおり、このままここにいたら消されちゃうかも」
名前はカオルというらしい。フェルゼンが助けようとしている女。
カシェルには興味があった。あの友人がわざわざ手紙まで出してくるだなんて、と。「だから僕がはりきって悪役するんだけど」と笑う。持つべき者は友人。それも命を預けられるくらいの。
そんな友人を持てる人間は多くない。なのでカシェルは自分は幸運だと思っている。