一方の美桜は「あの、フェルゼンさんは?」と合流し、凄い顔をしているニーナと、腰が抜けた私を完全無視している。
 ニーナに掴まりながら椅子に座る。



「何故俺のことを?」

「えっ」

「俺はカオルの護衛だから、ここにいるが」



 同行の拒絶に、美桜は唇を噛み締めた。そして、堪えながら控えめに挨拶すると去っていく。毎回だが、まるで嵐のようである。

 ニーナにお茶を頼む横で「何かされたか」とフェルゼンに問われ、首をふる。

 張り手をされたが、傷にはならない。ただ、初めて反抗したことがよかったのかと後悔している。今まで言わないように我慢していたのに。
 やってしまった感がする。これではまたさらに何かされるのではないか。


 カオル、と言われて顔をあげると女性とは違うややざらりとした手は頬を撫で「腫れている。叩かれたか」と。確かにじりじりと痛んでいるが、という横で「まあ!」とニーナがぎょっとし、慌てて濡れた手拭いを用意するのを止める暇はなかった。
 しばらくして戻ってきたニーナから受け取った手拭いを頬に当てる。痛みは去ったが、なんだかまだ違和感がある。



「すまない」

「どうして謝るんですか」

「俺がここにいれば、叩かれることはなかっただろう」



 まあ、確かにそうかもしれないが。美桜はフェルゼンが目的であったのだから。
 だがいなくてよかったとも思う。



「もう少しの辛抱だ。キリアールを去り、スフォルでは自由な日々を過ごせる。それまで」



 真剣なフェルゼンの言葉に、私はただただ頷くしかなかった。