「かわいそうに」

「そうなの?」



 何が起こったかわからなかった。
 張り手を受けたのだ、と頬の痛みを感じた。

 美桜は「なにそれ」とぶっきらぼうにいう。ひりつく頬に手をあてたら負けだ、と私は意地をはる。無駄な意地。だがそれに美桜が苛ついたらしく、張り手をかました手を握る。した方もそれなりに痛いはずだ。
 このヒロインは何をいうのだろう。



「腹立つとか思わないわけ?文句とか言わないの?」



 美桜は初めて会ったときと比べると、ずいぶん身なりが綺麗になったようだが、それだけらしい。中身は地球の、日本の女子高生のまま。
 普段は猫かぶりで、何かのときに牙をむくらしい。いじめをする親玉という感じか。
 唇がひんまがった。嘲笑らしい。



「つまんないなぁ。ここでムカつきが爆発して殴ってきたり暴言吐いたりしないわけ?あー、乙ゲーならここでイベントっていうころなんだけどなー」

「ゲームのしすぎだな」

「エロゲーしかやってないあんたよりマシ」

「あぁ?」



 年が近いのと、同じ高校生であるという共通点。しかも同じような分類らしい。まだ、力がある異世界人という特殊さを甘んじて受けているらしい。

 というか、イベントって。

 あれか。エリザベートとの婚約を破棄する!とか、やってもないことをやったと断罪するやつとか?それとも今に見てなさい!とか?

 ここまでくると、この世界は乙女ゲームの世界なのかとも考えてしまう。あいにく私は詳しくないのでわからないのだが。
 だとしてもゲームではくっついて終わりだが、現実は違う。くっついて終わり、だなんていうことにはならない。

 この世界で生きていくしかないのだ。
 早くどっかいってくれないかな。



「とにかく、ここにフェルゼンさんはいないから。探したいならどうぞ」

「…お前さ、調子にのるなよ」



 身近な刃といったら、包丁である。ここにきて見ることはあまり無いが、と抜かれた刃を見た。日本の刀とは違い、西洋の剣というか…よくみるソード、っていう感じだ。
 ただこちらに向けているだけだが、それでも威力はある。ゲームで見るののとでは違う。人を殺せる。

 私とは違い、翔も美桜も魔物を倒しているような人物だ。さすがに人間をということはないだろうが、やるときはやるかもしれない。俺の時代が、だなんていっていたのだから。