ニーナに聞いたら、ニーナもまたこの国に未練はないという。ついてきてくれると微笑む。
 それだけでもほっとした私に、フェルゼンもまた「まだ少し先だが、楽しみにしているといい」と笑って見せる。その表情は柔らかなものだった。


 キリアールのことは、たいした知識はない。離宮生活となってからは幽閉状態であるし、そこからは出られない。窮屈ではなかった。離宮内では自由に身動きがとれていたから。ニーナとのんびり過ごせた。


 フェルゼンに言われた通り、キリアールを出ることは美桜と翔らには言わないように気を付ける。言えば間違いなく何か動いてくる。美桜や翔だけではなく、ザウツやルドルフらなんかも動くからと。


 美緒と翔が今何をしているのか。舞踏会とやらのための準備か。
 ああ、本当に。


 力がない事実で、私の存在は微妙なものとなっていた。このまま離宮で閉じ込められて生きていくのか。それとも。

 いつだって不安だった。美桜が自慢と見下してくるたびに。羨ましいがられたいことはわかっていても、羨ましいとも思ってしまう。
 私は、何故。だがフェルゼンの手をとってから、日々が少し変わった。


 計画を聞いても、何だか浮わついていて、幻なのではないかと夜に思ったりする。自分は浮かれているのだろうか。いや、それよりスフォルでの生活の不安のほうが大きい。私の決断はあっているのだろうか。
 私は不安症なのだろう。
 



「ちょっと!」




 フェルゼンとニーナ、そして私とでキリアールを出る話をしてから数日。

 庭先にいた私は、ドレスの裾を持ち上げながらやってきた美桜に「どういうつもり!」と怒鳴られた。ニーナはここにはいない。私だけだ。何をしに来たのかという前に、彼女の口からはフェルゼンの名前が出る。

 やはりな、と思った。

 フェルゼンは計画のために離宮を離れていることが増えた。密かに友人とあっているのだ。