「あの、フェルゼン様。国を出るといいますが、どうするおつもりですか。カオル様はここから出られませんよ」

「大丈夫だ。手を打っている」

「手を打っているって」

「舞踏会とやらだったかがあるだろう?その参加者がいま集まっている―――その参加者の中に、俺の友人がいる。スフォルの有力貴族だ。奴の手を借りる」

「な、なんかすごい話になってない…?」

「お前の命がかかっているからな」



 つまり、私のためと?
 すごい言い方である。

 確かに私が邪魔だという話が出ているなら、私は消される、殺されてしまうかもしれない。それは、怖い。死ぬのは、怖い。

 落ち着くように息をはく。そんな話があるということだけだ。今すぐではないはずだ。



 フェルゼンが私のために動いていると。しかも、ニーナも一緒に。


 私は迷った。だって喚ばれて今に至るまでここで生活していたのだ。また新しい国に、だなんてと。そしてフェルゼンのことを完全に信じていいのかと思った。信じては、いる。だが話だからな不安だった。怖かった。足元は不安定だった。異世界。私たちが喚びました、だなんて。馬鹿じゃないのかと。しかも魔物と戦えと?無茶な。叫びたかった。どうしてと。


 安心が、ほしかった。




「このままいれば、何をされるかわからない。なら、やはり国を出た方がいい」

「でも、出たあとは?」

「心配するな。その辺に放り出すことは絶対しない。カオルとニーナが自由に生きていけるようにする。不幸にはさせないと誓おう」




 まるで、告白みたいじゃないか。
 一瞬、何もかもが止まったかのように思えた。ここは静かだが、余計しんと静まり響いた。


 フェルゼンは真剣だった。私はそれを信じてもいいのか。


 ここでの生活は、この世界にやってきての始まりの場所。そこを出るのは、勇気がいる。甘えることにも力がいる。

 でも。
 少なからず、フェルゼンはあの美桜と翔より信じられる気がした。なにも知らないのに。

 ――――私はその手を握った。