「駆け落ちすれば」

「左手がなんだか拳に」

「暴力反対―――でも、連れていってどうするつもり?」

「暮らせるようにはする」

「言葉違うのに?異国にほっぽりだすの?しかも離宮暮らしでほとんどこの世界のこと知らないのに?異世界人めずらしーうちにこなーいとか変態に拐われる可能性があるけど」

「魔術師の才があると思う」

「……へぇ。それはまあ。君がそういう根拠は」

「勘」

「君ねぇ」



 紅茶の香りが広がる。カシェルがカップを持ったまま「大抵は簡単な魔術なら扱えるけど」という。



「魔術師となれば違う。もっと大きな力だ。しかも厄介なのは、それぞれ違うことだ。自分でいうのもあれだけど、魔術師は結構めんどくさいし―――」

「わかってる。めんどくさいのはお前でな」



 簡単な魔術は一般人でも使えることがある。が、使えないものもいる。
 なら魔術師はどうか。
 魔術師は結界をはったり、攻撃や防御の術を扱う。対魔物ではよく駆り出される存在だ。大体が剣士なんかと組むことが多い。宮廷魔術師である彼もたまに討伐隊に参加することはある。そのさいよくフェルゼンもまた引っ張られるため、理解していた。

 魔術師であったなら、ここと同じように戦うことになる。彼女は戦うことをどうおもっているのか。
 もし彼女だって力があるとされていれば、ミオらと同じように魔物と戦っていただろう。

 彼女も、ミオやショウのようになってしまっていただろうか。



 大人しそうに見えたが、実はじゃじゃ馬だった彼女。話してみれば普通だった。
 少し後ろ向きの思考であるが、それは今の状況であるから仕方あるまい。彼女は必死そうだった。だが、この国にこのままいればいつか消されるのではないか。その前に何とかしてやれたらと思った。


 そのため本国にいるカシェルに連絡を取り、うまいことカシェルは賓客としてやってきたのである。



「まあいいけどさ―――君、助けるなら最後まで手を放したらいけなくなるけど」


 
 つれていくことは出来る。が、そのあとのこともある。言葉。文字。文化。働く場所。人間関係はどうにかなるとして、永い時間が必要となるだろう。フェルゼンは一応貴族の端くれであり、支援するのは問題ない。
 しかしカシェルの含み笑いに溜め息。



「…別に嫁にくるわけではないのだが?」

「はいはいわかってますよー。フェルゼンのことだから、ちゃんとするってことね。親友の頼みだから、はり切っちゃうよ~僕」

「一応聞いておくが、死人と政治問題を出さない上で何をするつもりだ」

「脅す」

「は?」



 にこやかに笑ったカシェルが、あまりにもさらりと言ったためフェルゼンは聞き返した。
 


「だって、隠してるんでしょ」




 いやぁ、楽しみ楽しみ。
 どこをどうやったら楽しみになるんだ馬鹿、とフェルゼンは不安になった。



  ***