「シャエルサーン殿」
ミオが近くによってきた、まさにそのときである。
この国の役人がそう呼んだため、視線はそちらを向いた。役人の正装姿は、やはり他国の貴族らがやってきているからであろう。フェルゼンは何やら予感がした。
「アウルダート卿がお呼びですので、ご同行を」
「…了解した」
誰だよそれ、とショウがいうそれに娘らが確か、と答えているのを背景に、フェルゼンは役人についていく。
要人に会うのに格好や剣に関して文句を言われないのは、あらかじめアウルダート卿がいっているのだろうと理解した。彼ならやりかねない。
この役人はフェルゼンがどう繋がりがあるのかわかっているのだろうか。それともはかりかねているのか。
城内の貴賓室へ案内される。部屋の前にはこの国では見ない格好をした護衛が立っているため、遠巻きに婦人らが見ているのがわかった。取り次ぎをしてもらい、中へと通される。
貴賓室らしい豪華な調度品が並び、そんな豪華さと同じくらい派手な格好をした男が手をあげた。派手といってもここでの話で、向こうではそうでもないのだが、やはりここでは目立つ。
男は案内した役人に声をかけて下がらせると、「元気そうでなにより」と笑った。
側近にお茶を準備させながら愉快そうに口を開く。
「いきなり連絡がきたと思ったら、手をかせって。僕は手紙を二度見して、さらにもう一回見たよ。槍が降ってくるかとも思った」
「どうせ暇だろうが」
「やだなぁ。暇じゃないよ。悪いやつをやっつけるのに忙しい」
スフォル=レンハーザ竜王国からの客人は、呑気にそんなことをいった。
アウルダート家は名門である。軍人から役人まで幅広く輩出した名家だが、天才となんたらは紙一重というごとく、変わり者が多い。
アウルダート家、現当主カシェル
・ルドゥ・アウルダートもまた宮廷魔術師も勤めている秀才であるが、貴族とは思えない自由人であった。

