私はフェルゼンと普通に話せるまでになっていた。フェルゼンもフェルゼンでこうして気さくに話してくる。前は全然だった。というか、私が緊張していたのかもしれない。
「ミオとショウはダンスのレッスンで忙しいらしい」
「へぇ…ダンスか。大変そう。きっと踊れないでしょうし」
「踊れない?」
「美桜も翔も、向こうでは普通の学生なはず。普通の学生は貴族とかに混じって踊るようなダンスは習ってないと思う」
「では、カオルも踊れないのか」
「踊れません」
「教えてやろうか」
「えぇ?」
いきなり何を言うのだろうと思った。本気なのかどうか迷っていると、大股で近寄ってきて、手をとる。そのまま私を引っ張りだし、腰に手がまわる。
「ちょ、ちょっと」
足が動く。「基本は、男に合わせればいい」らしい。こんなに近くにいる。欧米人とかなら抵抗ないだろうが、私は大有りだ。強ばるに決まっている。
足は縺れる。「ごめんなさいっ」もちろんそうなると相手の足を踏む。「痣になったらカオルのせいだな」などと早く解放してくれと思った。
ひなたにきた私は、眩しいと目を細める。フェルゼンとの距離が近いことにもどきどきしてしまう。どきどきしてなんになるんだ、と必死に押し込めつつ、フェルゼンにされるがまま。
解放されたときには、何だかふらふらしてしてしまい「淑女は遠いな」といわれた。
「私は淑女にはなれませんよ」
「女と獲物は強いほうがいい」
「なんですかそれ」
「古い言葉だ。ここでは男女比でいうと男のほうが上だが、故郷では違う。だいたい対等で、男は女を大切にする」
「へぇ…」
「女の要人もいるが、ここでは少ないな」
「ということは、フェルゼンさんの国では役人も女性がいるんですか」
「ああ。軍人も、役人もいるな」