さよならを告げるまで





「口を挟むようで悪いが」



 はっとして視線をずらす。
 銀髪。いつのまに来たのか知らないが、ニーナの近くにフェルゼンがいた。やや息が乱れているのは急いでここに来たからだろうか?その目は翔らへと向いていた。

 翔がめんどくさそうに目を向ける。「彼女もやりたいことをやる自由はある」と。
 それに対して翔は肩をすくめた。だから何だ、とでもいいたげである。



「あんた確か薫サンの護衛だよね。美桜が気に入ってる」

「えっ」



 美桜の顔に戸惑いがあったのはわかった。フェルゼンは無表情。奥ではルドルフらがなにか様子がとこちらに来るか迷っているような素振りをしている。出来れば来ないでほしい。面倒だから。

 美桜がフェルゼンのことをたまに話してくるのは、私も知っていた。気になるのだろうな、と思ってはいたが……もしかして。



「力のない薫サンより、美桜の護衛をしたら?嫌々やるよりいいでしょ」

「残念ながら断らせて貰う」

「は、どうして」

「俺は好きでここにいるから、その話にはのれない」
「へぇ。物好きだ」



 思わずフェルゼンの顔を見たが、彼は翔の方を見ていた。



「俺らのほうが、力のない薫サンよりいいと思うけどな」

「俺にはたいした問題ではない」

「ふーん。だってさ、美桜」




 話をふられた美桜は、目を泳がせて先に何故か走っていってしまった。フェルゼンがお気に入りというのは当たっているのだろう。
 なんだか嫌な予感がする。