さよならを告げるまで




 フェルゼンは毎日姿を見せる。たまに高級そうなお菓子を持って、どうしたのか聞けば「厨房からもらってきた。好きだろう」と。お菓子はニーナと一緒に「美味しくて太りそう」などといいながら食べた。


 そんな日々が、平和に続けばだなんて思った矢先のこと。



「うわぁ、薔薇!」

「離宮だっけか。けどまあ、城と違ってさびれてんなー」




 ある日ニーナが慌てて飛び込むように私のもとにきて、思わぬ来訪者の訪れを告げた。私も慌てて図書室から出て庭先に足を向けると、一人はドレス姿、もう一人は騎士のような格好をした二人にぎょっとした。
 近くには二人のために用意した紅茶と菓子が載ったテーブルがある。
 美桜と翔だった。



「あ、薫さん!久しぶりです」

「そうだね」



 何をしに来たんだ、と言いたかった。久しぶりに見る二人はたいして変わりはない。

 やや離れたところにルドルフとザウツの姿が見えた。護衛らしくあまり目立たないように立っているが、何かあればすぐにやって来るだろう。



「全然見ないと思ったら、離宮に移ったっていうから会いに来たんです」

「移ったっつーか、あれだろ。閉じ込めてんだろ。薫サン、俺らみたいに力ねぇから」

「ちょっとっ」

「あの、それでここへは何をしに?」

「あんたさぁ」



 翔がくるりとこちらを見た。高校生らさし、大人とはいえない顔が笑っていた。「気に入らないんだろ」という。そこには憐れみと嘲笑が含まれてきた。
 確かに気に入らないけれど、それをそうですよというつもりはない。  

 美桜もまたこちらを見ていた。綺麗な色のドレスだった。