「まず、自分と向き合うしかないだろう。異世界人の力について、俺はどうすることもできない。できるとしたら、きっかけになりそうなものを紹介するとか、そういうのくらいだ」
「自分と…」
「魔術が使えるかどうかはまだわからないが、やらないよりはいい。その…読書も悪くないはずだ」
彼も、力がある人の方がいいのだろうか。だから使えるはずがない可能性が見つかったのなら、手を貸してくれると…?
「どうして貴方は急にそんなことを」と聞いてみた。使えるかわからないのにと。
その問いに、何故かフェルゼンが黙った。そして「さぁな」と言葉を出す。まるで自分でもよくわからないというように。
「えっ」
「俺にもわからん」
彼は謎だった。ルドルフらにはあまり良く思われていないみたいだったし、私とだって、言われたから護衛をやっている、という感じだったのに。戸惑うのは仕方ないじゃないか。
ここにきて私には安らぎがあまりない。いつも不安。
浴槽につかって、微睡んでも時おり真っ黒い何かが引きずり込もうとしてくるのだ。この不安を、愚痴を誰に言ったら良い?言えるはずがない。ここでは私は異質だ。美桜と翔も。
どう影響がくるのか。慎重になったほうがいい。ここは日本じゃないのだ。
私の離宮暮らしは、フェルゼンが加わったくらいで変わりは無い。世話はニーナがしてくれて、私はかなり自由だ。フェルゼンもフェルゼンで前とは違い、気さくに話すようになった。よってそれで彼のことを知る。
フェルゼン・ラドゥ・シャエルサーン。彼の本名で、彼は留学中なのだという。