▼5 静かな怒り





 力がないなら、私はこのままずっとここで暮らすのだろうか?力がないなら、意味はないとほうり出されたりしないか。

 頬杖をつきながら、息をはく。ずっと胸が重苦しい。



 文字に飽きて絵が多く載る図鑑を見ていた時、フェルゼンが離宮に姿を見せた。

 久しぶりに見たが、怪我なんてないし、いつもながら迫力があった。見た感じでの判断だったが、純粋に「無事だったんですね」と言葉が出た。フェルゼンは一瞬間があいたが、頷いた。そして「話がある」と。


 それに急遽、部屋にはニーナがお茶の席を用意した。お菓子に、紅茶。ほぼ私の好みなのだが、フェルゼンはとくになにも言わず紅茶に手を伸ばした。私はというと、しばらく見なかったフェルゼンが急に話があるといって来たことが、何だか嫌な予感しかしなかった。

 例えば、護衛はやめることになった、とか。
 それに美桜や翔のことがあるため、何を言うのか検討がつかない。どきどきしながらフェルゼンの話を聞いた。



 あの森でのことを聞かれたが、美桜に誘われて行ったあの日のことは、途中までしか知らない。気がついたらここであったのだといえば、フェルゼンは二体目の魔物が出てきたあとのことを話した。

 彼が言うには、気が付けば場所が移動していたという。森から急に城に近い場所に移動していたというのだから、瞬間移動とか、テレポートとかが浮かんだ。

 フェルゼン自身も魔物によって負傷したはずが、その怪我は全くない。
 本当に、幻であったのではないかと思うほどだったという。


 そんなこと誰がやったのだろう。ルドルフとザウツは、この現象を美桜か翔の力でであろうという決断したらしい。

 当の本人らは呆然としていたし、何かを使った様子は見られなかった。が、ルドルフらが先にそう口に出すと、我に返った翔や美桜もまた戸惑いながらそうなのかな、と言葉を受けたという。