私はほとんどの人の名前を知らないままだ。国の王族も、儀式をした者らも。
知るのは美桜と翔の護衛をしていたあの二人と、フェルゼン。そしてニーナ。これが私の異世界だった。
力がない異世界人である私は、力を望んだこの国にとってはただの現地の人とかわらない。むしろこの国の一般人より悪い。一人では生きていけないのだから。
―――あの、美桜に森にいかないかと誘われた日。
魔物と戦闘になったのだが、美桜も翔も苦戦していたのを覚えている。しかも、この辺りまで強いのがきてるのか、とかなんとか言っていた。魔物にも弱い強いはある。美桜も翔も、容易く倒せるのではなかったのかと思った。
けれど、どうだった?
焦っていた。美桜には怖れもあった。そうして突き飛ばされた私は、フェルゼンの出血を見た。迫る獰猛な魔物が牙をむいたのも。
気がついたら、ここにいた。
魔物は美桜と翔が片付けたという。私はというと気絶し、運ばれたと。一方的に説明すると、さっさと行ってしまったから問うことは出来なかった。
よくまあ生きていたなと思う。大きな牙と舌まで見えたのに。
フェルゼンは無事だったのか聞きたかった。嫌々ながらやっていたかもしれない私の護衛。が、必ず毎朝会ったし、移動するときはついてきていた。わからないことは答えてくれていた。意地悪とか、そういうのはされたことがない。
あの人はこの国の人、なのだろうか。親しく話したことはなかった。私は何とかして力がほしくて必死だったから。でも、とニーナにいれてもらった紅茶を飲みながら思う。
朝起きて、身支度をする。
ここにきて初の生理には戸惑った。ニーナにはお世話になりっぱなしである。ここでの生理事情は、布ナプキンである。洗って使うものだ。私へ用意してくれたものは、使うときどきどきした。布ナプキンなんて使ったことがない。いつもはあの使い捨てのだったから。
女だとこれが一番気を使う。お腹が痛いときにはベッドにずっと横になっていたし、天気がよければ本を手に外で読書した。たまにくる不安の波に押し流されてしまいそうになりながら。
「カオル様、大丈夫ですか」
「うん…大丈夫」
ベッドの上これから私はどうしたらいいのか、どうなるのかわからないままだった。