私は離宮で日々を過ごすこととなった。
離宮は私一人が住むには十分すぎたし、何より広い。庭だって手入れされていて荒れているというわけではない。
やはり王族や身分の高い者が閉じ込められるだけのことがある、などと思った。武装した兵士の姿は見るし、庭師も見た。もっとも兵士は入り口の見張りのようやものだし、庭師とは話すことはない。あまり許されていないのかもしれない。
ニーナがやることはといったら、私に洋服を着せたり、話をしたりすることだ。「こういってはなんですが、ずいぶん仕事が楽で」とニーナが微笑む。
侍女の中でも苛めとか、身分とか色々とあって大変らしい。しかもニーナの場合、元貴族ということもあって風当たりは冷たいものだったのではないか。没落した貴族というのは、あまりいい未来とはいえない。
離宮には図書室もあった。書棚がずらりと並ぶ光景。
広いが、もちろん司書のような人はいないし、どこに何があるのかは自分で探さなければならない。はじめはうろうろばかりしていた。
どこに何があるのか、どんな本なのか手にとってはぱらぱらと捲ってみる。
難しい。優しいのはないのか。読まないよりは読んだ方がいい。
私は本をとり、机によく向かうようになる。それ以外にとくにやることがなかったといえばそれまでなのだが。本を読んでいれば時間が忘れられた。
私は離宮にきても、前と変わらない日々を過ごせていた。
唯一変わったのは、あのフェルゼンが姿を見せてないことだ。
ニーナに聞いてみたら、わからないと首をふる。ただ、御披露目やら舞踏会やらのための式の準備で忙しくなっていることくらい。他国からも人が来るらしい。御披露目、とはいったが単なるパーティー、舞踏会だそうだ。
王族や貴族が集まるパーティーは、社交の場でもあるため年頃の娘らは着飾るのだという。漫画や小説のような出来事。
美桜と翔もまた、そのなかに出席するのだ。力を持つ異世界からやってきた人物として。それが羨ましいかといえば、否だ。そんなのに出たらマナーとかあれこれ面倒だと思う。