さよならを告げるまで




「ニーナはどうして、私の侍女に?」



 赤い髪の、侍女服をきた美人は困った顔をした。彼女は唯一、私専属の侍女である。
 侍女ですので敬語は不要です、といった彼女は今では一番近くにいて頼りにしていた。 だからこそ、聞いたのだ。



「カオル様は、私がお世話を押し付けられたたと考えていらっしゃるのでしょう」

「うん…」

「確かに向こうはそうしたのかも知れませんが、私は嫌々やっているわけではありませんよ―――少し話をしても?」



 ニーナはお茶やお菓子を用意しながら、自分は元貴族なのだといった。しかし貴族とはいっても位は下で、没落してしまったのだという。
 兄がいたそうだが、没落させたのは兄のせいらしく、ニーナがこうして勤めてからは行方知れずだそうだ。

 寂しくないかと聞いてみると、少しはといった。



「私も必死になんとかしようと思ったのですが、無理でした。兄は変わらなかった」



 貴族というのは、日本人である私からして遠い。どんな苦労があるのかなんて、政略結婚とかそういうのしか浮かばない。一般人とは別の苦労があるのだ。
 ニーナの過去になんといったら良いかわからず、口を閉じた私に「私は今この仕事があります」と微笑む。



「この世界では簡単な魔術を、誰もが扱えます。なので使えない者は肩身が狭い。実はいうと、私の兄がそうだったのです。使えるのが普通だとするなら、使えない者は異常で、回りは冷たかった。私が使えるので余計、兄は荒れたのかもしれません。よく、お前が男ならと言われましたなら」

「そんなことが…」

「ご安心下さい。カオル様が私は嫌だとおっしゃられない限り、私は侍女としてお世話させていただきます」



 不覚にも私はぼたぼたと涙が落ちた。

 富む者もいれば、落ちていく者がいる。無いものがあれば、得るものもある。

 私は何を得たのだろう。ニーナか。知識か。籠の中での自由か。自由が良い。生きていたい。けれど孤独は嫌だ。