ここに喚ばれて、いきなり力がどうこう言われて、彼女はひっそりと泣いていた。
誰かに当たり散らしたくとも、彼女にはフェルゼンか、ニーナしかほとんど会わない。当たっても意味がないのをわかっているのだ。
書物に向かう背中はふるえていた。
力がないのは何故か。フェルゼンにはわからない。魔術が使えない人は居ないわけではない。使えないからといって、虐げられるのはどうか。いや、彼女の場合はただ閉じ込められるだけだ。
彼女は何も言わない。言っても無駄だというかのように。
確かに無駄だろう。
儀式をした連中にさえ、何故力がないのかわからないから。
ニーナか、フェルゼンか。彼女にはそれらしかいないのだと不憫に思った。暗い顔をしてしまうのは仕方がないのではないか。今まで生活してきた中から、いきなり喚ばれたのだ。問答無用に。
異世界人にだって、家族だっていただろう。
この世界にやってきたということは、もとの世界との決別である。そんなすんなり納得できるはずがない。
彼女は、くっついてきたのではなどとミオらがいっていることを知っていた。
たびたびやってきたミオは隠していたが、カオルにはミオの考えや思いが何となくわかってしまっている。
カオルはただただ、義務的にミオと話しているだけ。誰も信じていない。信じていい人すらわからないのだろう。
フェルゼンにも、最低限のことしか話さない。挨拶とかそのくらいだ。たまに聞かれる問いに答えるというくらい。
自分だったらと考える。自分がこことは違う場所に喚ばれたら。
疑心暗鬼になる。誰が味方であるのか。文化の違いだってあるだろう。
カオルの不安は多い。しかも支えになるはずの同じ国の者がカオルとは違ってしまっている。
それは、実に心細いのではないか?

