フェルゼンは剣を構える。
この国では、フェルゼンは目立つ。日焼けしたような肌はこの国の人とは違う。この国の人は白い肌を持つからだ。
日焼けしたような肌とがっしりとした体躯、銀髪という組合わせは、ここではあまり見ないだろう。
もっともフェルゼンの母国の人間がみな、フェルゼンのような日に焼けた肌ではない。フェルゼンは剣士だ。魔物と戦う者。日焼けは仕方がない。
ここに来てから恵まれた体と、武術からまるで猛獣だな、などと笑われたことがある。猛獣。強いほど逞しい生き物に例えられると、この国では野蛮というような意味もくっついてくるらしいことはすでに知っている。
ここキリアール近隣諸国では貴族は優雅なもの、女は淑やかに、というのがここでの常なのだ。よって獰猛さは女を怯えさせる。同じ男でさえ怯むことがある。が、一般人から兵士となった連中は逞しさがあり、それがフェルゼンにとっては貴族出身の兵士とやりあうよりも断然心地よいものであった。
猛獣だろうが獰猛だろうが、どう言われようがフェルゼンは構わなかった。
どうせ期限つきの滞在なのだから、と。
もともとフェルゼンはこの国の者ではない。西にある国の出身である。
スフォル=レンハーザ竜王国。
名前の通り、竜のいる国だ。
フェルゼン自身はその竜の国の出身であるが、フェルゼンの母はこの国出身だった。政略結婚として母はキリアールから異国のスフォルへと嫁いできたのである。
キリアールの母の実家は没落し、すでに無い。よって政略結婚として繋がりをもっていたが、今はほぼないといっていい。
―――あの国には、あまりいい思い出はないのです。

