―――英雄となった男は、その後の一生はこの世界で終えた。
彼は結婚しても子供が出来なかったという。それは竜の呪いだとも囁かれた。
英雄が生きている間は平和だったものの、英雄が死んだ後、再び凶悪な魔物を前にしてまた人々は迷うことになる。
人々は英雄に頼っていた。頼りすぎていた。新たな英雄を望んだ。
邪竜を倒した英雄はこの世界の人間ではない。それはつまり、この世界に似た場所が存在しているということだ。
英雄はそこからこの世界に来たのだ。ならば、何とかして世界を繋げられないかと魔術師らは考えた。魔術師らは何年も研究した。
儀式が完成したのは、英雄が死んだ随分後のことだ。
儀式の完成はどういう経緯をたどったのか、この辺りはバラバラでどれが正しいのか不明であるものの、儀式始まってから喚ばれた異世界人は何かしら力を持っていたという―――。
キリアール王国とその周辺に伝わる昔話を思いだし、フェルゼン・ラドゥ・シャエルサーンは侍女や役人が慌ただしいのを見ていた。
この話は、主にキリアールとその周辺で聞く。だが、キリアールの近隣の国では異世界人の英雄が、その国の人間であったりと多少なりとも変わる。
このキリアールでの英雄といったら異世界人だが、近隣では多少変わっているのは知っている。地域によって差が生まれるのは仕方がない。竜を邪悪な存在としているあたりは、同じだ。
フェルゼンからしてみれば、竜よりも魔物の方が邪悪だと思うのだが…。
それより、と兵士たちのひりついた雰囲気をフェルゼンは感じていた。
舞踏会、パーティー、御披露目式。
言い方はどうでもいいが、近いうち近隣諸国から客人がやってくる。万が一他国の貴族が傷ついたりすれば、政治に関わる。不備があってはいけないと必死なのだろう。
「手合わせ願おう」
訓練場はいつも以上に熱があった。要人が集まるならば警備などしっかりしなくてはならない。故に指導の怒声が響く。
どの国もこの訓練場の雰囲気はたいして変わらない。