ゼレンダール赤竜騎士団の団員ともあろうものがと思うが、ここでは捕らえた者に尋問、さらには拷問もかけることがある。人の苦痛の混ざった悲鳴や鈍い音は団員でさえ怯えさせるのかもしれない。

 実際、酷くなると拷問の際に堪えられず吐く者もいるのだ。


 フェルゼンはそんな独特な雰囲気のなかを進むと、薄暗い中に、赤色。
 室内から出てきたターシャ・アキンラテヴォである。男並の身長は目立つ。



「団長」

「どうだ」

「見限られたとしてべらべらと話してくれました」



 諜報員が戻ってきたのと同じ頃、関係者を捕らえていた。その関係者を地下に閉じ込めていたのだが、と「俺が出る幕はなかったか」という通り、あれこれ喋ったらしい。
 喋らなかったら、アレスが言っていた通りお仕置きタイムだったのだが。


 ターシャは黙ったままだが、同行した新人が青白い顔をしている。
 この女はあのアレスの部下であるだけのことはある。フェルゼンも頼りにすることがある一人だ。青白い顔をしているということは少し"お仕置き"したのだろう。


 ちなみに、フェルゼンがお仕置きタイムをした時に同行した団員が反吐をしたことがあるのを思うと、ましだろう。

 もっとも、拷問をかける前にはじっくり尋問してからと決まっている。よほど酷い相手なら、だ。


 渡された手書きの情報に目を通す。「やはり事実のようですね」というターシャに頷き「アレスが準備している」と伝える。

 単独でやることは少ない。複数いる。リーダーがいて、その手足となる者は一人ではない。
 今回は金をばらまいているらしいが、手足として使う相手を間違えた。だから、こうして捕まえられたのである。
 


「まあいい。準備が終われば勝負にかかる。参加する連中に言っておけ」

「わかりました」
 

 
 喋ったのならば用はない、とターシャらとともに地下から出る。彼女らと別れたあと、執務室へ足を向けた。

 スフォルに戻ってきてまだ一年もたっていないが、忙しいというような感じではなかった。確かに団長に復帰してからはその仕事におわれ大変ではあった。忙しい、といったら忙しいのだが―――それでも、休みに街に出たり散歩に出ることも多かった。
 それはフェルゼンがというより、カオルのためにというべきだろう。



 ウジェニーにどやされてて出かけることもあったが、言われなくてもカオルを連れ出すようになった自覚はある。だからこそ最近騎士団の団員が訳のわからないことを話しているのだ。

 『キリアールから戻ったばかりの団長に恋人が!?』とかなんとかいう話がちらほら出ているのを知っている。


 街に出れば騎士団員はいるし、知り合いだっている。気にはしていたが、カオルの子供みたいな顔を見ているとまあいいかとなるのだ。