「異世界から人がやってくるのは、世界の調整ではないかという話もありますね。この世界の始まりは諸説ありますが、もともといたこの世界の創設者と、別からやってきた者との結果が今のこの世界だとか」

「…世界の始まりなどいくらでも作れるだろう。演劇のように」

「まあ見てませんからね、誰も」



 当たり前のことをさらりといいながら書類をめくる。

 歴史を記した書物や石、歌なんかはある。が、それが事実かといったらわからないとしかいいようがない。アレスのいう通り誰も見ていないともいえる。

 誇張して表現したり、またはこうなったらいいなどもあるだろう。
 全てが正しいとはいえない。
 

 
「怒ってるんでしょう」



 ずはり聞いたアレスは顔色を変えなかった。一方のフェルゼンは眉が少し跳ねた。



「一般人を一人ほっぽりだすのは誉められたものではありません。あの人のことですから考えた上でのことでしょうが」

「誉められるわけなかろう。あの馬鹿、なにかあったらどうしてくれる」



 異世界人を狙った者がいるのを知っていて、わざとカオルを街中に一人にさせたあの馬鹿―――イーサンに文句をいったのはついさっきのこと。
 彼はけろりとして「だから早く捕まえるんだろう」とのたまいやがった。

 その通りなのだが、腹立つ。

 イーサンは腐っても宮廷魔術師だ。一人にさせたとしても、ちゃんと術をかけていただろうことは知っている。それにカオルは運が良かったのか、すぐ団員に声をかけられて一人でいた時間が少なかったのも幸いだ。

 しかし、あの脳筋の弟子が黒髪の少女(実際は少女ではないのだが)だと!?となっているのは頭痛がする。

 アレスが含み笑いを浮かべていたのに問うと「何だか父親に見えてきて」となどという。



「誰が父親だ」

「団長、娘が出来たら過保護になりそうですね」



 結婚もしていないのに娘か。