「聞いた話しなんだが…あのトロスウェル卿に最近黒髪の女が弟子になったとか」
「あの脳筋に!?」
思わずターシャはそういってしまった。その黒髪の女は変わり者なのだろか?
―――じゃなくて。
あの脳筋魔術師が弟子をとろうがなんだろうが、それよりも団長のことのほうが大事だ。
親戚じゃないのか、などといっている中でターシャはぐるぐると思いが回っていた。謎の黒髪の少女。脳筋の弟子。鬼畜上司の意地悪。
吐き出す息が白く消えていく。
団長に恋人がいるのは別に問題はない。が、少女というのがどうなのか。
やはり言うべきだろうか?
「何歳なんだろ」
「小柄だったし、やっぱ少女か…?」
「だがそれってまずいんじゃねえか」
「だよな。だって少女って」
「ロリコ」
「それを言ったら死ぬぞ」
「いや、でも想像してみろよ…」
「………」
「………」
「で、ですがはっきり見たわけではないのですよね?ね?」
「だ、だよな!そーだよな!」
「そうだぜあの魔王が幼女趣味なわけないだ――――」
心なしか、寒さが増した気がした。そして目の前の団員の顔が固まる。
凶悪な魔物を目の前にしているのにこん棒しか持ってないからどうしよう、みたいな。
ターシャはなんとなく、いや、はっきりわかった。
後ろに、いることを。
少し横にずれた。そして振り返る。ひぃ!怒ってるんですけど!
そこにいたのは、外套をさっと羽織っただけのフェルゼンだった。眉間にしわが寄って迫力満点。
あ、死んだなと誰もが思った。
「ずいぶん余裕があるようだな」
ないです、なんで誰もが言えない。というかこうなったら何をいっても無駄だと思う。
このあと、団長による容赦ない指導が入り、ターシャもまた地面に転がるまで付き合わされることになる。
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