まあ、そのあと魔物討伐とかがあってごたごたし、それどころじゃなくなったのだが―――「何の話です」と団員に聞いてみることにした。興味である。
 団員は「団長のことっすよ」と返してくる。やはり団長か。



「この前、黒髪の少女をエスコートしながら劇場に入っていくのを見たっていう話で」

「劇場?」



 この団員は同じく同僚とともに見回りをしていたらしい。で、夕方雪の中を歩いていて、あ、と思ったという。

 馬車から降りてきたのは、魔王。そして魔王はあとから降りてきた黒髪の少女の手をとった。信じられないくらい(普段鬼のように剣をふるうくせに)優しい手つきで、そのまま劇場内に入っていったという。



「…弟君では?」

「いや、あれは絶対魔王だ。厳つい顔だったし」



 団長は双子である。弟がいるのは知っているので、ターシャはもしかしたらと思っていたのだ。団長の弟が黒髪の少女と歩いていたのではないかと。
 まあ、騎士団団長が少女とデートというよりはまだいいのではないかとひっそり願ってもいたのだが。


 新人が「え、団長双子なんすか!?」と驚いている。それの同時に魔王が二人いる、などと想像しているらしく、心なしか青ざめている。

 双子なので顔だけなら魔王が二人ともいえる。が、弟のほうはフェルゼンよりもやや柔らかさを含んでいた気がする。



「…恋人かな」

「あまり見ない顔立ちだったんだ。黒髪のな…いいな…」



 黒髪はいないわけではない。が、始祖を連想させるのだろう。男には人気であるのは知っている。
 妄想をしている団員の一人が「そういや」と口を開いた。