休憩に入らせると、新人やら部下がそれぞれ息を整えるのに必死である。鬼畜上司なら「この程度でへばっていたらあのトロスウェル卿に負けますよ」などと言いやがりそうだ。
もちろん、ターシャはなにも言わず見守るのみ。
トロスウェル卿というのは、宮廷魔術師であるイーサン・トロスウェルのことだが、彼は魔術師である。重ねていっておくが魔術師だ。
何故引き合いに出されるかというと、あの魔術師殿は魔物を殴り倒すのである。
普通魔術師は魔術を使う。まあ、剣を扱えないというわけではないが、なんたって魔術師なのだから魔術を使うはず。
なのに…魔術師が魔物を殴り倒すのを目の前で見た。ターシャはもう訳がわからなかった。嬉々として殴り倒すそれは悪夢ともいえる。
そんな脳き…じゃなくて、魔術師殿は団長の御友人である。ああそうですかへぇ、とターシャは遠い目をした。
笑っていたのは鬼畜上司のみである。
「なあ…俺は見ちまったよ」
「―――まじか」
「黒髪の……」
休んでいる連中が仲良く(?)話しているのは別に気にしないのだが、今日は黒髪という言葉にターシャは反応した。
団長がキリアールから戻ってきてから浮上した、団長に恋人いる疑惑。同僚から聞いた話を思い出した。
黒髪の少女と団長のデート。
少女と魔王。
少女の時点で不味いと思ったターシャはあれこれ頭で想像し飛散。
知っていそうな、というか絶対知ってると思う鬼畜上司ことアレスは教えません(にっこり)といってそれきりだった。