番外編◆団長に、恋人…?





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 空中戦は気合いが必要である。

 ターシャ・アキンラテヴォが新人だった頃、竜から落ちたことがある。竜同士と戦いは激しく、普通に一回転したり、上下逆さまとなったりする。ちゃんと竜と体を武具で繋げていてもなお、その激しさで空に投げ出されることがあるのだ。

 一瞬の浮遊感と、すぐ襲ってくる落下の怖さ。地面がみるみる近くに迫ってくる。
 死ぬな、と思った。

 竜は友人であり、大切な存在である。よって竜に乗ることは初めてでもなんでもない。ないのだが、ターシャは怖かった。
 もちろん、投げ出されることなんて新人やそうじゃなくても騎士団ではあるため、死なないように魔術師が術をかけてくれてはいるし、自分の竜や仲間が助けに入るのが普通だ。それでも怖いものは怖い。

 ―――ターシャの竜は、ちゃんとターシャを拾ってくれたのだったが。




 現在空中戦の訓練を街から外れたところでやっている。よってターシャは自分の空中戦のことを思い出したのだ。

 空中戦の指揮、監督をしているのはあの鬼畜上司(アレス)である。


 鬼畜上司の上司、魔王(フェルゼン)は書類とにらめっこしているようで、ターシャは地上で部下たちの訓練に付き合っていた。ターシャ自身もまた訓練はびしばしだが、鬼畜上司と魔王に比べるとまだマシだと思う。それが甘いともアレスにいわれるのだが、鬼女とか言われたくないというのが本音である。


 雪が積もっているため、走りにくいし足が取られる。雪だろうが雨だろうが、魔物も敵も待ってはくれない。

 どんな環境でも動けるようにしておく必要があるため、時には山にものぼるのだ。思い出すだけで死にそうになる。