さよならを告げるまで




 竜はいつしか人の姿をした女に恋をした。女は姿が違っても竜を愛したし、竜もまた女を愛した。

 だがあるとき、女は蛮族の手に落ちた。蛮族は人々を苦しめた。女が守ろうとした場所が壊されていく。これ以上壊されないよう、女は蛮族の手に落ちたのである。だが竜はそれを許さなかった。眠っていた力を解放し、女を救い蛮族を退ける。

 その迫力のある光景に息をのんだ。


 竜の息吹は蛮族を焼き払う。刃をはじき、畏れさせた。 



 蛮族は退いた。だがこれからもこうした蛮族が平和を脅かすだろう。そう思った竜は女が愛した竜の姿から、美しい青年に姿を変えて見せ、そこで永遠の愛を誓う。



「始祖は、黒髪の女と力のある竜とされる」



 ―――演劇が終わり、観客が出入り口へと向かうなか、まだシートに座りながらフェルゼンがいう。私も余韻にひたり、なんだかふわふわとしていた。 



「その話は様々な脚色を加えられて、こうして劇や歌になっているのだ」



 竜が青年に姿を変えたあと、人々は彼らを指導者とした。つまり、王にしたのだ。

 普通なら、竜のほうが有名になりそうなのだが、スフォルでは竜と女性のセットで知られた話だという。現在の王族はその子孫であり、ときおり先祖返りなのか竜の鱗が体に出るのだとか。

 こんな話を聞くとやはりファンタジーチックだなと思ってしまうのだが、ここは私にとって現実だ。