▼21 色恋は遠い
イーサンとカシェルの正式な弟子となってからというものの、時おりあのイーサンとカシェルのもとで手伝いをするようになった。手伝いといっても、基本はまだ勉強中心なのだが。
そんな日々になって、フェルゼンから出掛けようと誘われた。ちょうど私の休み(自宅…フェルゼンの邸でのんびりするのが大抵)と重なるのを見計らってのことである。
季節は冬。
外套や手袋やらと防寒対策をした私と同様、フェルゼンもまた手袋に外套をまとっていた。
風避けなんかの術をかけて、アッシュに乗る。アッシュは冬でもお構い無し。元気よく飛んだおかげで私はふらふら状態で街に足をつけた。
「どこにいくの」
「劇場だ」
「劇場…?」
「の前に、少し付き合ってくれ」
それは構わないが、と馬車に揺れながらうなずく。外は雪がちらついていた。
馬車はある店でとまり、フェルゼンはさらっと扉をあけたが、私が入るまで扉を開けたまま待ってくれていた。からん、とベルの音がする。
何度か来たことがある洋服屋だった。外見はかなり古風で入りにくそうなのだが、店員はとても易しい人である。どうやら服についてあれこれ話に来たらしい。
私は邪魔にならないようにはしっこにいて、フェルゼンの今日の格好を思い出す。
外套の下は、黒色。やたら釦があり、銀色の縁取りがされ、刺繍が入っている。
普段邸に入るときは砕けた格好をしているからこそ、その劇場へと行くための格好はフェルゼンを凛々しくさせる。もっとも、私も外套の下はドレスなのだが。しかも濃い青色。
フェルゼンと出掛けるのは初めてじゃない。彼はたまに連れていってくれていたし、シエスとともにやってきたこともある。その時の格好は控えめな服装で、今着ているパーティーにでも出そうな格好はしない。
何故そんな格好をするのかわからないかったが、なるほど劇場に行くからかと今さらわかった。どうりでウジェニーのニーナがどうりで張り切っていたわけである。
仕立屋の店主に挨拶をしながら出る。
「新しい冬服をな。どこぞの脳筋のせいで服がよくボロボロになる」
脳筋というのは、イーサン・トロスウェルであるのはもう知っている。
この前なんか邸の敷地内でフェルゼンと雪の中やりあっていたばかりである。美形二人が雪の中やりあう。かなりいい絵だった。うん。
再び馬車に乗ると、立派な建物が見えた。
馬車からは人が降りているのが見える。私らもまた、劇場近くで馬車を降りることになった。馬車は時間になると迎えにくるらしい。フェルゼンのエスコートに従う。