玄関近くまできてようやく、引っ張られていた腕が解放された。

 一体なんだ、と文句をいう前に「兄貴のことたからちゃんとしてると思うけど」と真面目な顔をしてみせる。



「大丈夫なの」



 それは、どんな意味を含んでいるのか。キリアールから連れてきたことか、異世界人ということか、それとも。

 どういう意味か沈黙したフェルゼンに、弟は「まあ、キリアールで散々見極めただろうけど」という。



「心配か」

「異世界人を集めてっていうやつらもいるし、悪いこと考えるのもいるから」



 時おりやってくる異世界からの人。どこから来たのかは様々で、見た目もまた違う。勿論言葉もそうだし、生活していた文化や技術も、だ。

 それらを利用して金儲けしようとしたり、企みを持つものもいるのだ。現にそういう輩を拘束したこともあるのだ。

 だから、心配になる。



 ましてカオルは少し大人びた少女に見える。童顔に身長も高くない。それに異世界人であり、黒髪。そして魔術師なら拐われる可能性もある。だから一人では街には出させない(もっとも、邸から街に行くには馬車などでなければかなり大変だ)ようにしているし、本人もわかっているはず。


 フェルゼン自身はカオルと過ごした日々がある。そこで知ったこともある。これがミオやショウならば間違いなく連れてきてなどいない。

 国にや家に迷惑をかけるような人間をつれてくるはずがないを、フェンデルらは知っているのだ。だが心配もあるからこその言葉であろう。
 


「良かったね、兄貴」

「なにがだ」

「だってほら、少女みたいだけど少女じゃないんだし」

「…人を幼女趣味のようにいうな」

「大人ならこのままお嫁―――」

「帰れ」



 蹴り出すように外に出した弟に、ああくそと頭をかき乱す。


 どいつもこいつも、と。





   ***