我に返った翔が剣を構える。その格好はただ剣を前に持ったというだけ。それでも今まで魔物を倒してきたのだ。どうこうなど言えない。


 
「倒せねぇはずがねぇっ」

「ショウ!待ちなさい」



 剣を持った翔が走る。森なので足場は土だけではない。木の根だってある。足をとられないよう気を付けなくてはならない中を、魔物に向かって翔は走った。

 魔物は大きい。

 ライオンやトラ、角など色々と混ざったそれは、翔のふった剣を避けた。続けてさらにふろうとしたのだろうが、魔物の尾がしなり、翔に激突する方が早かった。

 ぐえ、などといって飛ばされた。今まで聞いたことがないような鈍い音と、激突音。美桜の悲鳴が重なる。



 死んじゃうのでは、と思った。だが翔はむせながら起き上がる。その顔には怒りのようなものが浮かぶ。


 美桜の矢が放たれる。当たったのは目。さすがに目をやられると動きが鈍くなる。魔物がのたうつたび、尾なんかが木にぶつかり、激しく音をたてた。


 希望が見えた。美桜はまた矢を構える。だが、気配がした。踏みしめる音。私も思わず唾を飲み込む。

 嘘でしょ。



「なっ」



 真横からそれは来た。
 同じ魔物だった。咆哮が辺りに響く。腰が落ちた。新しく姿を見せたそれ。今のでも十分てこずっているのに、もう一体?馬鹿じゃないの。

 あの牙が突き立てられたら。
 怖い。誰が。