「フェルゼンに助けて貰ってから彼に会うのが楽しみでね。よく会いにいったり、呼んだりしてたんだ。でもある日手紙で、風邪をひいたから無理だ、ってそっけない手紙が来たんだ。僕はあのフェルゼンがって驚いたよ。だってフェルゼンっていったら、強くて無敵な感じだったから。フェルゼンだって風邪くらいひくだろうにね」
確かに、と思った。私は今のフェルゼンしか知らないが、今のフェルゼンでも風邪をひかなそうに感じる。
その後見舞いに行ったカシェル少年は、フェルゼンに何故来た馬鹿、となじられたらしい。結局追い出されたとか。
懐かしいな、とカシェルは窓を眺めながらいった。
この邸の主、フェルゼンはここ数日戻っていない。街にも不在であるのは知っている。新人をつれて魔物討伐に行くといって、私に「行ってくる」といったのを見送った後のまさかの風邪っぴき。
「フェルゼンのことは心配ないよ。討伐っていってるけど、新人らの実践訓練に付き合うって感じだから」
じゃあまたね、というカシェルに頭を下げる。
相変わらず派手な身なり(この国では派手ではないらしいが)だなと思いなから、息を吐く。
カシェルもフェルゼンも気を使ってくれる。そのことに甘えていいのか。
私だって出来ることをしてきた。覚えて扱えるようになってきた魔術の力を使ったりとか、掃除の手伝いをしたりとか。
けれど、心は時おりひりつく。あんなになじられたけれど、美桜と翔のことだって気になっている。彼女らは辛くないのだろうか。家族のことを思わないのだろうか。
すべてから切り離されて、一からやるのってしんどい。
思い出は捨てられないし、あの優しい手も忘れられない。
―――風邪は長引いた。

