こちらの世界にくる前、よく鼻や喉をやられていた。最近は喉がやられることが多い。が、熱を出して寝込むまでの風邪はしばらく引いていなかった。寝込むのは生理中くらい。
異世界での風邪は初めてである。
ここでの風邪は、地球での風邪と同じかどうかはわからないが、たぶん同じような感じだろう。
―――初雪が降った日。
この世界でも雪は降るのかとぼんやり思った。四季の存在にほっとした。時を感じて、これからどうしたらいいのか困っている自分がいる。
スフォルにきて数ヵ月の間に、季節は冬になっていた。
キリアールから何日もかけのスフォルに来た私はというと、数ヵ月のんびり過ごすことを基本とされた。それは魔術という力のためだという。
私は地球から呼ばれた異世界人で、日本人としてごく普通の二十歳すぎの女である。もちろん魔術やら魔物やらなんて物語の中だけだった。
それがある日突然ぐるりと変わってしまった。キリアールの人たちによって。
同じように喚ばれた、美桜と翔には力があったのに、私にはなかったために離宮生活となった日々――――。
あれには、参った。
そばにいるのはニーナと、異国からきたというフェルゼンくらいで、味方としていいのかどうかさえわからなかった。私に出来ることをした。読書ばかり。読んでいるときはそれに集中できるから、余計なことを考えなくて済んだ。
あの日々は、無駄じゃなかった。
フェルゼンは今、魔物討伐のために出ている。よって街にいない。そんな矢先の、風邪。体を冷やしたのかなんなのかよくわからないが、ひいてしまったものは仕方がない。
フェルゼンの邸に住んでからというものの、私は自由に過ごせて、幸せだと思った。みんな優しくて、参ってしまうほど。
けどたまに、夜ひっそりと泣いた。