何故かって?

 ターシャが酒を飲ませまいとした同僚をやっつけ始めたたため、同僚がアレスにどうにかしてくれと呼びにいったせいである。

 お陰であの事件(もはや事件だろう)はターシャにとって悪夢でしかない。夢だったらどんなによかっただろう。忘れてくださいといったところで無理な話である。

 ターシャはアレスを睨んだが、痛くも痒くもない涼しい顔をしている。




「私はこれから室内に戻ります。少し休ませたら、まだ訓練をつけてやりなさい。手加減はなしですよ」

「………鬼畜上司め」



 ターシャ自身、新人だったころにこのアレスにこてんぱんにやられた。骨が折れていたし、吐いたしと酷いものであった。それからまた数年。自分でも強くなったが、まだまだだ。だが、新人の気持ちはわかるのでちょっと哀れんでしまう。


 団員は強さを求められる。空中戦もやれなくてはならない。

 歩いていたアレスが立ち止まり、振り返る。やばい。聞こえていただろうか。ターシャは冷や汗をかいた。




「鬼畜上司。いい響きです」




 にこやか。

 顔はイケメンされど腹黒鬼畜上司。
 ああもう、とターシャは頭をかきむしる。

 しかし、黒髪の少女か…。
 気にはなるが、それより訓練だと気を引き閉めた。


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