番外編◆団長に、恋人がいる疑惑
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ゼレンダール赤竜騎士団は歴史ある騎士団であり、首都に拠点を置く大きな騎士団の一つである。
支部もあるこの騎士団の団長はフェルゼン・ラドゥ・シャエルサーン。副団長兼副官は、アレス・レネン・ルルードだ。
人物に関していうと、どちらも鬼。魔王である。つまり、容赦ない訓練をし団員からはそう言われているのだ。
新人を募集しても最初の訓練で脱落者は必ず出る。現在いる団員でさえ、へばるほどだ。故に魔王などと言われているのだが、ここだけが特別ではない。騎士団はどこも同じようなものだ。
フェルゼンに関していうと、シャエルサーンといえば武人が多い家であり、その父親もまた強かったことは知られている。
母親は異国からやってきた女性で可愛らしい人だそうだが、フェルゼンに可愛らしさは残念ながらない。あったらあったで怖い。いろんな意味で。
ならば副団長であるアレスはどうか。
アレスは大商人に分類される家の次男である。貴族ではないものの、いわゆる金持ちだ。が、本人はお金持ちにありがちの頭の軽いぼんぼんではない。軍人となることを選び、実力でゼレンダール赤竜騎士団に入った。
今は副団長と副官を兼任している。
フェルゼンとアレスのどちらがやばいかといったら、どちらもやばい。
何人もの相手をしてけろりとしているのを見ると、化け物なんじゃないかと団員はひっそりと思っている。
――――今広い訓練場を完全武装で走っている団員や、組み合って剣や槍をうちあっているのも、体術で気絶している者が転がっているのもとくに問題はない。怪我人が出るのも毎度のことである。
問題はないが、と副団長の部下の一人、ターシャ・アキンラテヴォは深紅の髪の毛をかきあげながら、溜め息。
現在団長は会議のため不在。副団長は今訓練場の一角を地獄と化している真っ最中。
ときおり、男の情けない声がしているのは新人だからである、と言いたい。男があんな声を出すのか、とターシャは昔のことをやや思い出された。