「どうしたんですか」
「邸に戻るな」
「え、どうして」
「この天気だからだ。シエス、頼めるか」
「ええ。わかりました。坊っちゃんは」
「俺は明後日帰る―――」
閣下どうしたんです!と背後から武装した団員がわらわらとやってくる。
どうやら先程フェルゼンが出した大声がまずかったらしい。
カオルがそちらを見た。
武装した団員がカオルを見た。
どちらもえ、という顔をしているのをフェルゼンは見た。
フェルゼンは視界を遮るよう、カオルを隠しつつ「今日は街に泊まって、明日帰るといい。いいな?」と。
カオルはぼんやりと頷くが、あれこれ長引かせるわけにもいかず、フェルゼンは背中を向けて「何でもない。戻れ」と。
団員の興味がカオルに行く前に下がりたかったのである。
シエスに頼んでおけば、街の宿をとるだろうし、護衛もいたから大丈夫だ。窓から見える鈍色の空と、雷。
団員に見せびらかすつもりもなければ、会わせるつもりもなかった。それに、フェルゼンは武人らしく鬼やら何やら言われるような男である。
異世界人で、まだ慣れないカオルにそんな姿を見せるのはなんだかこう、抵抗があった。嫌ではないのだが……。
アレスのいうとおりだ。
最近は、家に帰ろう思うのはカオルがいるからだ。
ほだされてしまっているな、と苦笑がもれる。
まだ外は酷い天気だった。
***

